
借金は早く返すな ―会社も家計も繰り上げ返済すべきでない理由
2026年06月03日 09:43
「借金は悪だ」「借りた金は一日でも早く返して身軽になりたい」
多くの方がそう考えています。真面目な日本人らしい考えですが、財務コンサルタントとしては推奨しません。厳しいことを言いますが、その本質を見ていない盲目的な実直さが、あなたの会社や家計を悪化させる原因になり得ます。
今日は、なぜ手元のお金を繰り上げ返済に回してはいけないのか?「法人」と「個人」の2つの視点から解説していきます。
▼①法人編:銀行は「雨の日」に傘を貸さない
まず経営者の方へ。利益が出たからといって、銀行への借入金を一括返済しようとしていませんか?やめましょう。理由は2つあります。
①「手元のキャッシュ」こそが最強の防具
会社が潰れるのは赤字だからではありません。現金(キャッシュ)が尽きた時です。繰り上げ返済で手元の現金を減らすことは自ら防御力を捨てる行為に近いのです。もし明日、コロナのようなパンデミックが再来したら?主要取引先が倒産したら?その時、通帳に現金がなければ即アウトです。銀行は、業績が悪化した時にはお金を貸してくれません(雨の日に傘を取り上げるのが銀行の常です)。
②銀行との「お付き合い」を切ってはいけない
「無借金経営」という響きはいいですが、銀行との接点がなくなることを意味します。また、銀行にとっての良い客とは、一括で返す客ではなく「約束通りコンスタントに利息付きで返済し続けてくれる客」です。毎月返済実績を積み上げることで信用が生まれ、いざという時に「あの会社なら」と融資が降ります。完済して関係を切ってしまうと、またゼロからの審査になり、緊急時の資金調達が遅れるのです。
資金が必要になったら、その時借りればいいや。そう思っているなら経営者もいるかもしれませんが、銀行がお金を貸したいのは、「資金繰りに困っている会社」ではなく「資金繰りに余裕あり、きちんと返済してくれる会社」です。本当に資金が必要になった(業績が悪化した)タイミングで駆け込んでも、銀行は貸してくれません。
だからこそ、「余裕のあるうちに借りれるだけ借りて手元キャッシュを積んでおく」。これが経営のリスクを減らす最強の防御策です。
「でも、余分に借りると金利がもったいない…」 そう思うかもしれません。では、冷静に計算してみましょう。仮に1,000万円を金利2%で借りたとします。年間利息は20万円。月々に換算すると最大で約16,000円です。たった月16,000円を払うだけで手元に1,000万円という最強の盾を持っておける。万が一の事態に備える保険料として考えれば、これほど安いものはないのではないでしょうか?
また、借りた資金を使わずに持っている限り、返済はそこから行えばいいため、資金繰りは痛みません。手元キャッシュが減ってきたら、返済実績をもとに再度「折り返し融資」を受ければいいのです。
▼②個人編:住宅ローンの繰り上げ返済は好条件融資の放棄
次に個人の方へ。冬のボーナスが入って「よし、住宅ローンを繰り上げ返済して期間を短縮しよう!」と思っていませんか?
それも財務的にはおすすめしません。なぜなら、昨今金利は上昇傾向にありますが、それでも変動金利なら0.5%〜0.8%程度と、資産運用の期待リターンに比べれば圧倒的な低金利だからです。例えば、手元に300万円あるとします。
A:繰り上げ返済する → 0.5%の金利負担が減るだけ(効果は微々たるもの)。手元の現金はゼロになる。
B:手元に残して運用する → S&P500やオールカントリーなどのインデック
ス投資に回せば、長期的には年利5%程度のリターンが期待できる。
「0.5%の借金を返すために、5%の利益を捨てる」これが繰り上げ返済の正体です。低金利でお金を借りられている権利(レバレッジ)を最大限活かし、手元資金はより利回りの高い場所で働かせる。これが賢い資産形成です。
また、会社同様、リストラや病気になった時、家の壁を削って食べることはできません。繰り上げ返済して現金を失うより、手元に流動性の高いキャッシュを持っておく方が人生のリスクヘッジになります。
▼注意点
ただし、手元にキャッシュを持つ戦略には「副作用」もあります。
通帳に多くのキャッシュがあるとつい気が緩んで、不要な経費を使ったり、無駄な設備投資をしたりしがちです。また、「借りられるだけ借りろ」と言っても、赤字の穴埋め(補填)のために漫然と借り続け、根本的な収支改善を先送りにしては、単に傷口を広げるだけです。
「借りたお金は使わずに守る」。この規律を持てる経営者だけが借金を味方にできます。
借入の限界を知る指標「債務償還年数」では、具体的にどこまでなら借りていいのか?借入が過剰になっていないかを測る「債務償還年数」という重要な指標をご紹介します。これは「借入金を会社のキャッシュフロー(利益+減価償却費)だけで返済するのに何年かかるか」を表すものです。
·10年以内:【適正】稼ぐ力に対して適正な借入額です。優秀な財務状態です。
·10年〜15年:【注意】まだ正常の範囲内ですが若干借りすぎの傾向があります。
·15年超:【危険】黄信号、あるいは赤信号です。
銀行からの借入を検討する際、もしくは現状の借入が多い場合などは、この「10年以内」をキープすることを目標にしてください。この範囲内であれば、銀行も喜んで「傘」を貸し続けてくれます。
▼まとめ:借金は「悪」ではなく「道具」
「借金=悪」という感情論を捨ててください。財務の世界では、借金は時間を買い、レバレッジをかけるための「道具」に過ぎません。
・法人:手元キャッシュを厚くし、銀行との信頼関係(返済実績)を作る。
・個人:低金利のメリットを活かし、手元資金を投資で増やす。
2026年、お金に困らない経営・家計を目指すなら、借りた金はゆっくり返す。これが鉄則です。